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mild life(新平)

「服部って、俺のこと好きだろう?」
何気なく出した言葉。
平次の応えは、新一の予想とは大きく違っていた。
「ああ、めっちゃ好きや。」
「マジか!」
新一が大きく驚く。
「何、大声出しとんね。」
「おまえって、どれだけ俺のことが好きでも、絶対にそれ言わないと思ってた。」
「応えを予想して質問されるのは好きやない。」
「そうだな。悪かった。」
新一の言葉に、今度は平次が驚く。
「びっくりした。工藤が謝ってくるなんて。」
「おまえ、俺のこと何だと思ってるんだよ。」
「工藤って簡単に謝るタイプには見えへんかったから。」
「簡単には謝らねえよ。」
平次だからだ、と新一が言う。
「工藤もめっちゃ俺のこと好きやな。」
「そうだ。好きだ、服部。」
新一はそう言うと平次を抱き寄せ、キスをする。
平次も新一の身体に腕を回す。
たまにはこうしてお互い素直になるのもいいかもしれない、と2人は思った。

恋愛相談(ハボロイ)

今日は久し振りに残業がないという日なのに、ロイに友人と飲みに行く、と言われ、夜のデートを断られてしまった。
友人って、誰?男?それとも女?どういう付き合いだった?聞きたいことはたくさんあったが、ハボックが言葉を出す前に、ロイはさっさと司令部から出て行ってしまった。
翌朝会った時には、ロイはいつもどおり忙しなく仕事をしていた。
昨夜はどうでしたか?質問が増える。
だが話しかける暇もないくらい、仕事に追われていた。
結局、帰宅を許されたのは夜の10時過ぎのことだった。
どうにか今日の仕事を終えたロイを、ハボックは家まで送る。
歩きながら、ハボックはロイに話しかける。
「昨日は遅かったんですか?」
「日付が変わる前には家に戻ったよ。」
「楽しめましたか?」
「久し振りに会ったから、それなりに楽しんだが。少し疲れたよ。他人の恋愛の愚痴は聞くものじゃない。」
どうやら自分という恋人がいながら、他の者とデートだったわけではなさそうだ。疑っていたわけではないが、心配はしていた。ロイはとても魅力的なのだから。
「どなたとご一緒だったんですか?」
ハボックは、ようやくその言葉を口に出した。
「士官学校時代の同期の友人だ。君にはヒューズ以外友人が居ないと思われているかもしれないが、そうでもないんだよ。他にも友人はそれなりに居た。あまり性格は合わないが、なぜかよく頼りにしてくれた相手で。いつもくだらない相談ばかりされていた。今回もそうだ。だが、久し振りに会ったというのに変わらない態度で接してくれたことは嬉しい。」
ロイは同期の中では一番出世している。一緒に士官学校で学んだ者にも、敬語を使われる立場になっている。だから変わらぬ態度で愚痴を言ってきた友人の話に楽しく付き合ったようだ。
「でもあなたが恋愛相談ですか。何か似合わないですね。」
「私もそう思う。付き合っている女性に自分と仕事のどっちが大事かと尋ねられ、仕事と応えられたら拗ねられたと愚痴られても応えようがない。私だって、彼と同じ答えしか出せないのだから。」
はっきりとそう告げられても、ハボックはそれが当たり前だと受け止めるしかなかった。ロイのそういうところもわかっていて、ハボックは恋人になることを望んだのだから。
「君ならどう応える?」
ロイは立ち止まると、ハボックに振り返った。
「どっちでもいいですよ。仕事してても恋愛してても、あなたの側に居られるのなら。」
上官でも恋人でもどちらでもいい。側に居て、ロイを護る。ハボックの想いは決まっている。
「君の愛情の深さを嬉しく思うよ。今日はうちに泊まっていけ。私も君の側に居たい。」
「いいんすか?俺、大人しく側に居るだけの忠犬じゃありませんよ。」
「それも含めて恋人なんだろう。」
珍しく、ロイもその気を見せてきている。
そんな話をしている間に、ロイの家に辿り着いた。
家に入るなり、ハボックはロイを抱え上げると、寝室へと直行した。

別れの予感(新平)

事件の捜査中、平次が怪我をした。犯人が仕掛けたと思われる罠を外そうとした時、誤って飛び出しそうになったナイフを、素手で握り締めてしまったのだ。
「何してんだよ。毒が塗ってあるかもしれねぇんだぞ!」
新一が叫ぶ。
「咄嗟に手が出てしもうたんや。」
手を開くに開けず、平次が苦笑いをする。痛みは思っていたほど感じられなかった。
「工藤、何か縛るもん貰うてきて。」
とりあえず止血しておけば良いだろう。治療よりも事件解決の方が先だ。平次はそう考えたのだが。
「ダメだ。すぐに病院に行く。」
「心配すな。血ぃで現場汚さへん。」
どうやら毒もなさそうだ。
「そういう問題じゃねーだろう。」
新一は平次の腕を取ると、無理やり立たせ、強引に歩かせる。
「2人して離れるわけにはいかんやろう。」
「目を離したら病院に行かないだろう。」
「病院行くから、工藤は残って捜査しろ。」
「おめえが病院に行って治療受けるまで、心配で碌な推理なんかできねえ。」
タクシーに乗り込んでも、新一は平次を離さなかった。
掴まれた腕はやたらと熱いのに、頭の中は冷え切っている。
今まで新一は、一度だって事件現場を放棄するようなことはしなかったのに。
隣に座る新一は、怪我をした平次よりもずっと動揺している。
状況は、非常に悪い。悪いのに、どこか喜んでいる自分も居る。
「工藤、腕見てもろうて特に異常がないようやったら、すぐに現場に戻って2人でスピード解決といくで。」
平次はそう言ったが。
「おまえは今日は休め。」
そんな言葉、平次は聞きたくなかった。
このままじゃ2人ともダメになってしまう。
それでも今はまだ、平次には新一の手を振り解くことはできなかった。

Special(新平)

待ち合わせ時間より早く着いてしまった。そうかといって、どこかで暇を潰すほどの時間はない。まあいいか、と平次が思った時だった。
「服部。」
どうやら新一も早めに着いたらしい。声が聞こえた方を平次が向く。
「あっ、工藤……って、快斗か。」
姿形は新一とそっくり。同じと言ってもいいくらいだ。恐らく快斗は新一に変装してきたつもりだろう。
「一目でばれた?上手く出来たと思ったのに。」
「わかるやろう。何せ工藤は……」
平次が快斗に違いを教えてやろうとした時。
「よう、服部。」
新一がやって来た。
「ああ、そういうことね。」
平次を目にした新一の笑顔を見て、快斗はすぐに納得する。
「そういうことや。」
平次は快斗にそう応えると、新一に笑顔を返した。
「確かにあれは俺には真似できない。」
快斗は髪をくしゃくしゃと掻き、普段の自分の髪型に戻した。

梅雨が明けたら(新平)

「梅雨が明けたら会いに行く。」
電話で平次にそう告げられ、新一はカレンダーに視線を向ける。
例年なら今週中には梅雨が明けそうだ。つまりは週末には来るということか。
「わかった。」
平静を装って応えたが、心の中では平次に会える喜びでいっぱいだった。
けれども電話を切ったすぐ後に付けたテレビの天気予報に、新一は一気に肩を落とす。今年の梅雨明けは例年よりも遅いらしい。
平次はそのことを知っていて梅雨明けに来ると言ったのだろうか。もし知らなかったとしても、やっぱり週末に来ると訂正してくるような性格ではない。
こんなことなら梅雨明けと言わせず、週末とはっきり決めておくんだったな、と溜め息が漏れた。
翌朝は、やはり雨。なのに初夏らしく気温だけは上がっている。
この湿度でこの気温は、真夏以上の不快感を感じさせられる。しかも週末会えると思って期待した平次は、恐らく来そうにない。
僅かな望みを込めて平次に電話をしたものの、週末来るという言葉を聞くことはできなかった。
来ないつもりではないと思う。いくら例年より遅いとは言え、梅雨明けはそろそろ訪れるのだから。
後数日の我慢だ。新一が自分にそう言い聞かせる。
けれども天気予報で今年の梅雨はかつてないほど長くなりそうだと聞かされてしまい。心が折れかける。
会いたい、と打ったメールは、未送信のままだ。
空以上に、心の中がジメジメしている。
新一は、ぱらつく雨の中、傘をささずに歩き出した。

I love you.(新平)

「服部、月が綺麗だな。」
ソファに座って読書をしていた新一が、本を閉じて不意にそう言う。
「こんな真っ昼間から何言うとんのや。」
新一の向かいに座り同じく読書をしていた平次が、本から目を放しながら言い返す。
「夜に言ったんじゃ、俺の言いたいことが伝わらないだろう。」
「おまえの言いたいことがさっぱりわからん。」
「いいや、おまえにはわかってるはずだ。」
わかるか、と怒鳴りつけることもできたが、平次は少しだけ考えてみる。
窓から外を見る。今日は快晴。確か今日は満月の日のはずだ。それなら先ほどの言葉はやはり夜に言うべきことだろう。
それなのに、今、この時間に「月が綺麗だ」なんて言い出したと言うことは。
平次は本をコーヒーテーブルの上に置くと、立ち上がり、新一の隣に座り直した。
新一は平次の肩を抱き寄せ、キスをする。
「服部、愛してる。」
「最初からそう言え。」
「たまには違う表現をしてみてもいいだろう。」
「結果は同じや。」
「そうだな。」
まだ昼間だというのに。新一は平次を抱き締めたまま倒し、柔らかいソファに身を沈ませた。

give to you(新平)

「工藤、明日そっちに行くけど、誕生日プレゼントは何かリクエストあるか?」
電話の向こうの平次がそう言ってきた。
「おまえが欲しい。」
本気で出した言葉だったが、期待はしていない。平次がいいと言うわけなどない、と新一は思っていたが。
「わかった。今年の誕生日プレゼントは俺ってことで。」
「いいのか!」
平次の応えを聞き、新一は思わず大声を出してしまった。
「何度も言うてるけど、俺は工藤のことが好きやし、工藤が俺のこと好きなのもわかっとるから、工藤が欲しいっちゅうなら誕生日プレゼントはそれにする。」
確かに平次とは想いを伝え合ってはいたが、未だキスすらできていない。それが一気にそんなことになろうとは。新一は大きな喜びを感じたが。
「やっぱりいい。誕生日プレゼントは違うものにする。」
新一はそう平次に言った。
「俺じゃ不満なんか?」
「そうじゃなくて。誕生日プレゼントじゃなくて、普通におまえが欲しい。記念日におまえをもらうんじゃなくて、もらったその日を記念日にしたい。」
新一が想いを告げる。
「工藤、今からそっちに行くから、家で待っとれ。」
平次はそう言うとすぐに電話を切った。どうやら本気でこれから東京まで来るつもりのようだ。
「新幹線に乗ったらメールを寄越せ。」
新一がそう平次にメールを送る。そしてすぐに東京駅まで向かう。家でおとなしく待ってなんかいられない。
結局、平次と一緒に家に帰り着いた頃には日付を越えて5月4日になってしまっていたが。新一にとって、その日は誕生日以上の記念日となった。

初夢(新平)

朝、目を覚ました瞬間、平次は新一と目が合った。
「あ……」
平次が言う前に、新一が言葉を続けてくる。
「愛してる。」
「あほ。あけましておめでとうやろう。」
「それもあるな。」
新一が、平次の身体を抱き寄せる。
「いい夢見たか?」
新一に初夢の内容を尋ねられ、平次は思い出そうとしてみたが。夢も見ないくらい熟睡していたので、何も思い浮かんではこなかった。
「夢は見てない。」
「俺もだ。」
新一は笑顔を出した後、平次にキスをしてきた。
「夢より現実の方がいい。」
それもそうだな。平次はそう同意しようとしたが。言葉を出す前に、机の上に置いてあった新一の電話が鳴り出した。目暮からの電話だ。
「事件だ。行くぞ。」
正月もゆっくり過ごさせてはくれないらしい。
2人は急いで身支度を整えると、事件現場へと向かっていった。

寝ている間に(新平)

平次が工藤家のリビングのソファでうたた寝をする。
昨夜、というか、既に日付が越えた時間まで事件に没頭していたため、寝不足だったからだ。
眠っている平次の側に、新一がやってくる。
新一は、平次にキスをした。頬や鼻、額、唇。軽く触れるだけのキスを何度もする。
新一がキスをしてくるのは、平次が眠っている時だけだ。起きている時には、そんなことなどなかったようなすました顔しか見せてこない。
唇を、啄ばむように何度も触れてくる。
「なぁ工藤、俺、そろそろ起きてもいい?」
既に眠ってはいなかったが、新一がキスをしてくる間は起き出すわけにもいかない。平次は新一に尋ねてみた。
「もう少し寝てろ。」
新一が、キスを繰り返す。
しばらくして、ようやく新一が離れたので、平次は身体を起こした。
「服部、今度、寝てる間に抱いてもいいか?」
不意に、新一が尋ねてくる。
「そういうのは起きてる時にしろ。」
平次はそう応えてから、行為自体は嫌ではないことに気づかされた。
「俺、おまえが寝てる間にしか手を出せないんだけど。」
「起きてる時じゃないとイヤやからな。」
キスだって本当は起きている時にして欲しい。
そう言いださなかったのは、言えばすぐにでも押し倒されそうなくらい熱い視線を新一に向けられていたからだった。

summer vacation(新平)

いつもどおり、電話で互いの事件について報告し合っている時だった。
「夏休みは旅行するぞ。おまえ、パスポートはあるだろう。南の島に行く。そこで夏休み中、2人でのんびり過ごすんだ。」
「そこでまた事件が起きるんか?」
新一と出かけると必ずといっていいほど事件に遭遇する。もはや定番だ。
「無人島に行く。2人きりなら事件に遭うこともない。」
「無人島か。悪くはないけど、そこで1ヶ月も生活できるんか?」
「おまえと一緒ならできる。」
そう言われて悪い気はしなかった。
「ここんとこ忙しかったから、読みたい本がたまっとるんや。持てるだけ持っていきたい。」
「同感だ。あとサッカーボールがあればそれでいい。」
「竹刀は持っていきたいな。素振りは欠かさんことにしとるから。」
話が盛り上がる。
だが、現実味は薄かった。
一通りお互いの希望を述べたところで、平次が新一に尋ねる。
「それで、ほんまの夏休みの予定は?いくつか後回しにしてた事件があるんやろう。」
図星だったのか、新一は電話の向こうで黙り込んでしまった。
「悪い。当分会いに行けそうにない。」
新一が申し訳なさそうに告げてきた。
「お互い様や。まあそれぞれ充実した夏休みが送れそうやからええんじゃない?」
「そういうことにしておくしかないだろうな。」
不満はあった。だが事件を投げ出すような真似はしたくない。
「暇見つけて会いに行く。それでええやろう。」
「随分と甘やかしてくれるんだな。」
「そんなつもりはない。俺が工藤に甘えたいだけや。」
その一言で、新一はやる気を出す。
「いい夏休みになりそうだな。」
新一の言葉に、平次も同意する。
再び事件の話に戻る。
話をしながら、数日後には始まる夏休みのことを考え、心を浮き立たせた。