ハボロイCategory Archives

恋愛相談(ハボロイ)

今日は久し振りに残業がないという日なのに、ロイに友人と飲みに行く、と言われ、夜のデートを断られてしまった。
友人って、誰?男?それとも女?どういう付き合いだった?聞きたいことはたくさんあったが、ハボックが言葉を出す前に、ロイはさっさと司令部から出て行ってしまった。
翌朝会った時には、ロイはいつもどおり忙しなく仕事をしていた。
昨夜はどうでしたか?質問が増える。
だが話しかける暇もないくらい、仕事に追われていた。
結局、帰宅を許されたのは夜の10時過ぎのことだった。
どうにか今日の仕事を終えたロイを、ハボックは家まで送る。
歩きながら、ハボックはロイに話しかける。
「昨日は遅かったんですか?」
「日付が変わる前には家に戻ったよ。」
「楽しめましたか?」
「久し振りに会ったから、それなりに楽しんだが。少し疲れたよ。他人の恋愛の愚痴は聞くものじゃない。」
どうやら自分という恋人がいながら、他の者とデートだったわけではなさそうだ。疑っていたわけではないが、心配はしていた。ロイはとても魅力的なのだから。
「どなたとご一緒だったんですか?」
ハボックは、ようやくその言葉を口に出した。
「士官学校時代の同期の友人だ。君にはヒューズ以外友人が居ないと思われているかもしれないが、そうでもないんだよ。他にも友人はそれなりに居た。あまり性格は合わないが、なぜかよく頼りにしてくれた相手で。いつもくだらない相談ばかりされていた。今回もそうだ。だが、久し振りに会ったというのに変わらない態度で接してくれたことは嬉しい。」
ロイは同期の中では一番出世している。一緒に士官学校で学んだ者にも、敬語を使われる立場になっている。だから変わらぬ態度で愚痴を言ってきた友人の話に楽しく付き合ったようだ。
「でもあなたが恋愛相談ですか。何か似合わないですね。」
「私もそう思う。付き合っている女性に自分と仕事のどっちが大事かと尋ねられ、仕事と応えられたら拗ねられたと愚痴られても応えようがない。私だって、彼と同じ答えしか出せないのだから。」
はっきりとそう告げられても、ハボックはそれが当たり前だと受け止めるしかなかった。ロイのそういうところもわかっていて、ハボックは恋人になることを望んだのだから。
「君ならどう応える?」
ロイは立ち止まると、ハボックに振り返った。
「どっちでもいいですよ。仕事してても恋愛してても、あなたの側に居られるのなら。」
上官でも恋人でもどちらでもいい。側に居て、ロイを護る。ハボックの想いは決まっている。
「君の愛情の深さを嬉しく思うよ。今日はうちに泊まっていけ。私も君の側に居たい。」
「いいんすか?俺、大人しく側に居るだけの忠犬じゃありませんよ。」
「それも含めて恋人なんだろう。」
珍しく、ロイもその気を見せてきている。
そんな話をしている間に、ロイの家に辿り着いた。
家に入るなり、ハボックはロイを抱え上げると、寝室へと直行した。

母の日(ハボロイ)

朝食を採らないロイのために、ハボックはコーヒーのみを用意した。
ハボックの入れたコーヒーを、ロイは満足気に飲む。
「君はコーヒーを入れるのが上手いな。」
「母に鍛えられたんですよ。食い物はそうでもなかったけど、コーヒーだけはこだわりがあったみたいで。」
「母親に感謝しておけ。正直言うと、君と初めて共に夜を過ごした時には、ただの暇潰し程度にしか思っていなかった。だが翌朝、君の入れてくれたコーヒーの味が忘れられなくてね。これがもらえるなら、君とは今後も続けてもいいかなと思った。」
初めの頃、ハボックとしてはかなり本気でロイを想っていたが、ロイがそうではなかったことにはハボックも気づいていた。だが今では、相思相愛であることは、ハボックの思い込みではない。
「俺のコーヒーに惚れました?」
「今ではそれだけではないよ。」
間違いなく、ロイの想いはハボックに向けられている。
「あなたと結ばれるきっかけがコーヒーだったと言うのなら、確かに母に感謝しなければいけませんね。」
「そうだな。今度、私から君の母に花束を贈らせてもらうよ。」
「それなら今度一緒に俺の実家にいきませんか?あなたのことを家族に紹介したいです。」
その時は、軍の上司ではなく、恋人だと紹介してもいいですか?そう尋ねたハボックに、ロイは、当たり前だ、と笑顔で応えた。

hot summer(ハボロイ)

セントラルは雨は多いが気候は年中温暖だ。
だが今年の夏は猛暑となっていた。
ロイの執務室は風の通りが悪いのか、嫌な暑さが篭っていた。
「ハボック少尉、勤務時間中なのだから、軍服は着たまえ。」
今はこの執務室にはロイとハボックしかいなかったので、暑さでだらけているくらいなら見逃すところであったが。内勤中にTシャツ姿はないだろう。ロイがハボックに上着を着るように言う。
「ズボンはちゃんと履いてるんだからよろしいでしょう。暑苦しいからむしろそっちの方を脱ぎたいのに。大佐も脱いだらどうですか?」
「私はこのままでいい。」
「大佐の部屋で2人きりのときは、脱ぎっぷりいいじゃありませんか。」
「私が脱いでいるのではなくて、君が脱がせているのだろう。」
「じゃあ今も俺が脱がせましょうか?」
「そんなことをしている暇があったら少しでも早くその机の上の書類を片付けろ。」
ハボックはロイに言われたとおりにするしかなかった。
だが時間が経ち、太陽の角度が変わるにつれ、執務室の中の温度は上昇していく。
「この暑さ、異常ですよ。何とかなりませんか?大佐だって、更に熱くする以外の錬金術、つかえるんでしょう?」
「黙って仕事をしろ。君は暑苦しいぞ。」
「大佐のその格好の方が暑苦しいです。ホークアイ中尉だって言ってたじゃありませんか。大佐が出るとこの暑い中余計に熱くなるって。」
「君たちは私のことをライターや暖房と一緒にし過ぎだ。」
「事実、そうでしょう。」
「わかった。涼しくしてあげよう。錬金術を使わなくても、それくらいできる。」
「水持ってきて浴びせかけるっていうのはなしですよ。」
「そんなことするか。この気温じゃ執務室が蒸し風呂になる。」
ロイは立ち上がると、ハボックの側に寄った。座ったままのハボックを、ロイが見下ろす。
「ハボック、別れよう。」
ロイの言葉に、ハボックの頭から一瞬にして血の気が引いた。
「大佐……?」
突然何を言い出すんだ?ハボックがそう問いかける前に、ロイが言う。
「嘘だ。だが一瞬、冷えただろう?」
「冷えるどころか、凍りついちまいました。でもそういう嘘は止めてください。すみません、俺が悪かったです。真面目に仕事します。」
「わかればいい。」
ロイは席に戻ると、仕事を続けた。
2人が黙々と仕事を進める。そんなことをしているうちに、そろそろ外勤に出た者たちが戻ってきそうな時間になった。
「ハボック少尉、仕事は捗っているかい?」
「おかげさまで。」
「それなら今日は定時には帰れそうだな。終業後に冷たいビールを飲みに行こう。私の奢りだ。」
嘘を吐いたお詫びだ。ロイが小声でハボックにそう言う。
「お供します。」
話がまとまったところで、外勤に出ていたリザたちが帰ってきた。
戻ってきた者たちの報告書は明日目を通すことにした。
勤務時間が終わり、ロイがすぐにデスクから離れる。
「今日は夜も暑くなりそうだな。」
ハボックを連れて執務室から出たロイは、そう独り言を出した。

smile(ハボロイ)

「おはようございます。」
出勤してきたロイに、ハボックが笑顔を向ける。
「おはよう。」
つられるようにロイも笑顔を出すと、席に着いた。
だが書類の山を目にし、ロイは表情を曇らせる。
ハボックはすぐに席を立つと、ロイにコーヒーを用意した。
「どうぞ。」
ハボックが笑顔でコーヒーを差し出す。
ロイはカップを無言で受け取り、笑顔を向けてくるハボックに視線を向ける。
「君はよく笑うな。」
何かいいことがあったか?そう他愛無い話をしていられるほど、ロイには暇がなかったが。ハボックの笑顔があまりにも楽しげだったので、つい無駄話をしたくなる。
「大佐には笑顔でいてもらいたいんです。大佐の笑顔が見たいなら、俺が笑わなくちゃ。」
そう言いながら、ハボックは更に笑顔を出す。
「おもしろい意見だな。だが私の笑顔は高くつくぞ。」
そう言いながらロイが笑顔を向ける。
その笑顔は、とても魅力的だった。
「おっしゃるとおりで。」
笑顔一つで、ハボックは心の全てをロイに持っていかれたような気がした。

day off(ハボロイ)

外勤から戻ってきたハボックが、ロイに報告する。
「その程度のことなら報告書を提出する必要はないな。」
ロイにそう言われ、ハボックはホッとする。正直、報告書を作るのは苦手だ。
「それから、君は明日休みを取れ。ここのところ昼も夜も働きづめだっただろう。上から部下を使い潰すなと小言を言われたよ。」
その時のことを思い出してか、ロイが苦々しい表情を出す。
「別にこの程度じゃ潰れませんって。まだまだ動けますよ。」
だから休みはいりません。ハボックはそう言おうとしたが。
「机の上の書類の整理ならブレダ少尉が代わりにやってくれるそうだ。」
先にロイにそう言われてしまった。
「ですが……」
「他にもまだ仕事が溜まっているのかい?」
「そうではなくて。休みは嬉しいですけど、あなたに会えないことが寂しいだけです。」
ハボックの言葉にロイは何も応えなかった。聞こえなかったことはないだろう。どうやら聞き流されたようだ。
ハボックはデスクにつくと、残りの書類を片付けにかかった。
定時に仕事を終えると、ハボックは休暇届を書き、ロイに渡す。
ロイはそれを受け取ると、すぐに了解のサインをしてくれた。
「ハボック少尉、私は2時間残業する。」
ロイは残業なのに、ハボックは休みを取るのか。そう嫌味を言われたのかと思ったが。
「夕食を用意しておきたまえ。」
仕事が終わったら会いに行く。ロイはハボックにそう告げた。
「これを片付けられたら、明日私も休みが取れるからな。それに、護衛が居なくては外勤に出ることもできない。」
外勤ならリザと一緒でいいだろう。それより、内勤の方が忙しいはずだ。ハボックはそう思ったが。そのことは口に出さなかった。
一緒に休日を過ごしたい、と言われたような気がしたからだ。
「朝飯の材料も買っておきますよ。」
遠回しに、泊まっていけ、とハボックがロイに告げる。
「任せる。」
ロイの了解を取ると、ハボックは浮かれた気分で執務室から出て行った。
2時間あれば、それなりに準備は出来る。夜勤続きで懐も少しは暖まっていることだし。ロイが手土産に持ってきてくれる上質のワインを想像し、ハボックは肉屋へと向かう。
一緒に過ごせるのなら仕事だろうとかまわないと思っていたが。やはりそれ以外の時間の方がいいに決まっている。
ハボックは、明日の休日に胸を躍らせた。

postpone(ハボロイ)

何かと忙しいロイが今週末は休みが取れそうだったので、久し振りに2人でどこかに出かけようと約束していたのに。
その約束を反故にしたのは、ハボックか、それともロイか。
「ハボック少尉、今すぐ南方司令部に行って、そこに捕らえられている男の事情聴取を行って来い。」
「えーと、あの……南方司令部で捕まえた奴なら、あっちで尋問すればいいんじゃありませんか?」
ハボックが、恐る恐るロイに聞き返す。
「先週おまえが取り逃がした男だ。あちらとうちでは欲しい情報が違う。おまえが直接話をしてこい。」
嫌だと言える立場ではなかった。
「了解しました。」
ハボックがロッカー室へと向かう。
南方司令部までは行って帰ってくるのに恐らく3日間だろう。それくらいなら今すぐ行けと言われてもロッカーの中にある荷物で足りるはず。
だが、ロイと過ごす休日は過ぎてしまう。
少しでも早く用事を済ませて帰ってこられるよう、ハボックは急いで荷物をまとめると、司令部から出た。
駅までは軍用車で送ってもらえると言われていたので、ハボックは表門で車を探す。
居た。
だが運転席に乗っていたのはロイだった。
「何であなたが運転席に居るんですか?」
「送ると言っただろう。」
「あなたは運転手なんかしてもいい身分じゃないでしょう。」
「では駅まではおまえが運転して行け。」
ロイは運転席から降りると、助手席に乗り込んだ。
本当にそれでいいのか、とハボックは思ったが。運転席に座ると、車を駅へと向かわせた。
「大佐、よろしかったんですか?もしかして、今、暇だったとか?」
「そんなわけなかろう。ここで一時間使うせいで、週末の休みはなくなりそうだ。」
「だったら司令部で仕事しててくださいよ。」
ハボックは車を止めると、司令部に戻ろうとしたが。
「君が居ないのに休暇を取っても意味がない。」
ロイが呟くようにそう言った。
「大佐……。」
一緒に過ごす休日を失い残念に思っていたのはハボックだけではなかった。そのことに、ハボックは嬉しく思わされる。
「おまえが朗報を持って帰ってくれば、少しは仕事が捗る。来週末は休みが取れるだろう。」
「しっかり働いてきます。だからあなたは安心して俺が帰ってくるのを待っててください。」
「任せた、と言いたいところだが。君が張り切り過ぎると、碌なことにならん。」
からかうように言いながら、ロイがクスクス笑う。
ほんの少しだけ、気分が和む。だが気を緩めるわけにはいかない。
駅に着くと、すぐに列車に乗り込み、ハボックは南へと向かった。
南方司令部で、ハボックは成果をあげる。
だが、あげ過ぎた。
予想していなかったテロリストの情報まで吐かせることができてしまい、帰るとすぐに出動。結局その週の休みも潰れてしまった。
「だから張り切り過ぎるなと言ったんだ。」
ロイはそう言ったが。ハボックの持ち帰った情報に、満足げな笑みを零していたのも事実だった。

good morning(ハボロイ)

夜勤明け。一服してから帰ろうと、火を点けていないタバコをくわえながら喫煙室に向うと、そこは既に満杯だった。
タバコが吸えるのはここだけではない。ハボックは、別の場所に向うことにした。
向った先は、執務室。この部屋を禁煙にしていない上司のことをハボックは感謝している。というか、愛してる。
「ん?」
執務室の中に、人の気配を感じた。リザだろうか?いや、いくらなんでもこの時間から来ているはずはない。
ハボックは警戒しながらドアを開けた。
「大佐?」
どうして、ロイがここに?何か緊急事態でも起きたのだろうか、とハボックは表情を引き締めたが。
「ご苦労。君なら帰る前にここに寄ると思っていたよ。」
どうやら何かあったわけではなさそうだ。
「どうしたんですか?もしかして俺に会いたかったとか?」
「そういうことになるかな。」
ロイがデスクから応接セットへと移動する。テーブルには、いくつかの紙袋が置かれていた。
「君と朝食を採ろうと思ってね。一服したら、こっちに来るといい。」
ロイは紙袋からパンにチーズ、ハム、サラダを出していった。
「マジで?それともこれは何かの罠ですか?」
「人聞き悪いことを言うな。最近、忙しくてあまり会話を交わす機会がなかっただろう。ようやく昨日落ち着いたと思ったら、君は夜勤だし。私も今日は昼前から隣町に出かけることになっている。帰りは遅くなりそうだから、君には会えそうにないと思ってね。」
だから、せめて朝食くらいは一緒に採りたい。珍しく素直に向けられたロイの愛情に、ハボックは感動する。
「タバコより、こっちが欲しいです。」
そう言うとハボックはロイに近づき、素早くキスをした。
軽く触れるだけのキス。それだけでもハボックは幸せを感じられた。
「ここではそういうことをするなと言ってあっただろう。まあいい。食べてすぐに帰ってゆっくり休むんだ。」
「昼前って、何時ですか?俺、お供しますよ。」
ハボックはそう言ったが。
「君の今日の出勤時間は13時だ。休める時に休め。」
「大佐の側に居られる方が嬉しいんですけど。」
「公私混同だな。だが、気持ちは嬉しい。今はそれだけで充分だ。」
やんわりとロイに断られた。
「週末には休みが取れる。一緒に居るなら、仕事抜きの方がいい。」
「今日の大佐、俺のこと甘やかし過ぎです。」
「そうじゃない。私は自分のことを甘やかしているだけだ。」
つまりそれは、ロイもハボックと一緒に居たいということで。
嬉しくて思わず抱き締めたくなったが、今は想像だけで我慢しておくことにした。週末には、思う存分抱き締め合うことができるのだから。