1月 2011Monthly Archives

スクラップブック(新平)

部屋で適当に資料を見ていていい。新一に言われ、平次は新一の事件ファイルを眺めていた。
どれも見事なものだった。
だがとある一冊を開き、平次は溜め息を吐かずにはいられなかった。
その一冊をしまおうとした時、新一が部屋に入ってきた。
「服部、おもしれぇもんあったか?」
確かにあった。だが、そんな気分はこの一冊で吹き飛んでしまっていた。
「俺が悪かった。工藤のこと、疑っとった。俺のこと好きや言うてるのは冗談かと思っとった。せやけど本気やったんやな。」
平次の言葉は突然だったが、平次が手にしているスクラップブックを見て、新一には平次が何を言っているのかわかった。
「あっ、それ、すごいだろう。」
平次が見つけてしまったのは、平次が関係した事件のファイルだった。そのほとんどは平次が解決したが平次の名前は公表されていないものだった。
「なしてこんなもんがここにある。」
「苦労して集めたんだよ。おまえから聞いた話を手がかりに、いつのどの事件か探り当てた。すげぇだろう。」
「すごいっちゅうか、工藤、頭の使い方間違えとるで。こんなもん探し当ててる暇あったら、もっと他にすることあるやろう。」
「俺なりの愛情だ。」
新一の本気は伝わってしまった。だが、あほさ加減もわかってしまった。
「話してない事件、まだあるんだろう。」
その事件に関する記事も探すつもりだろうか。
だが平次が話し出す前に、新一は机の引き出しから何かのコピーを取り出した。それは、平次がまだ新一に話していなかった、平次が解いた事件に関する内容の記事だった。
「なして、これ持っとるんや?この話はまだしてへんやろう。」
「実は、そっちの記事のほとんどは、おめえの母さんが取っておいたものを借りて新聞探したりコピーを取ったものだ。
こっちの事件の話はまだ聞いてなかったから、そっちには貼っておかなかった。」
どうやら平次の話から事件を探り当てたというのは嘘らしい。
「だったら先にそう言え。なしてこないなことした。」
「お まえがそれを見つければ、俺が本気でおまえのこと好きだって確実に伝わると思ったからだ。実際、そうだろう。口で言ってもわからないような相手にわからせ るのは大変なんだよ。でも、おまえにはきちんと俺の気持ちが伝わった。どうだ?頭の近い方、間違ってはいないよな。」
確かに何度好きだと言われても、これまで平次は信じることをしていなかったが。今は新一に本気で好かれていることに気づいてしまった。
「今回は工藤の思惑どおりにいったことは認めてやる。せやけどやっぱり、工藤はあほや。」
それだけは譲れない。
平次は資料を本棚に戻すと、気分を変えるため、別の資料を手に取り、読み始めた。

ファースト……(新平)

初日の出を見に行こう。
冬は外に出たがらない新一が、珍しくそんなことを言ってきた。
新一の誘いが珍しくて、平次はすぐに了解した。
新一の運転する車で出かけたまでは良かったが。
外は雪。初日の出は見られそうにない。
とりあえず目的の場所へ行ったものの、新一は車から降りるとずっと電話をしている。
平次は新一から離れ、辺りをうろついていたが。寒さに負けて、車に戻ることにした。
平次が車の側まで戻ってきた時。
「服部、行くぞ。」
さっさと車に乗れ。新一が平次に言う。
「行くって、どこや?」
「事件だ。」
勝手な男だ。だが、イヤだとも言えない。
平次が黙って助手席に乗り込む。
「不満そうだな。」
「文句言いとうないから、事件の内容聞かせろ。」
それで少しは気持ちも治まるはず。
「その前に。」
新一は運転席から身体を伸ばし、助手席の平次にキスをした。
「Happy new year!」
新一が車を走らせながら、事件の話を始める。
今年初めての事件。今年初めてのキス。
平次は窓から外を眺めながら、今年初めての笑顔を零した。