10月 2012Monthly Archives

こそあど(新平)

ベッドに座り警視庁から渡された資料を読みながら、新一はデスクでパソコンに向かっていた平次に言った。
「服部、それ、取ってくれ。」
「それってどれや?」
平次はマウスを動かす手を止め、振り返り新一を見たが、新一は資料から目を離すことなく、さっさと渡せと言わんばかりに手だけを差し出してきた。
「それだよ、それ。」
平次は机の上にあった鋏を手に取ると、新一の手に乗せた。
「ちげーよ。これじゃねえ。」
「だったら何なんや。はっきり言え。」
「赤ボールペン。」
平次は赤ボールペンを取り上げ、新一に投げ渡した。
赤ボールペンは新一の額に当たると資料の上に落ちる。
さすがに新一も怒っただろうか?平次は少しだけ心配したが。新一は表情を変えることなく赤ボールペンを手にすると資料に書き込みを始めた。
文句の言葉すら出ないくらい怒らせたか?平次は機嫌を窺うように新一に尋ねる。
「何も言わんのか?」
「言って欲しいか?」
「んー……」
言って欲しいような、言って欲しくないような。迷う平次に、新一が告げる。
「愛してるぞ。」
「何やそれ。」
突然の言葉に、平次は訝しげな表情を出す。
「わからんのか?」
「さっぱりわからん。」
「まだまだ夫婦には遠いな。」
やっぱり意味がわからない。
「工藤、俺にわかるように話せ。」
「そのうちわかるようになる。」
もういい。平次はパソコンの画面に向き直った。
「あっ、そうだ、服部、あの件どう思う?」
だからあの件ってどの件だ?平次は怒りを通り越して呆れてしまった。