別れの予感(新平)

事件の捜査中、平次が怪我をした。犯人が仕掛けたと思われる罠を外そうとした時、誤って飛び出しそうになったナイフを、素手で握り締めてしまったのだ。
「何してんだよ。毒が塗ってあるかもしれねぇんだぞ!」
新一が叫ぶ。
「咄嗟に手が出てしもうたんや。」
手を開くに開けず、平次が苦笑いをする。痛みは思っていたほど感じられなかった。
「工藤、何か縛るもん貰うてきて。」
とりあえず止血しておけば良いだろう。治療よりも事件解決の方が先だ。平次はそう考えたのだが。
「ダメだ。すぐに病院に行く。」
「心配すな。血ぃで現場汚さへん。」
どうやら毒もなさそうだ。
「そういう問題じゃねーだろう。」
新一は平次の腕を取ると、無理やり立たせ、強引に歩かせる。
「2人して離れるわけにはいかんやろう。」
「目を離したら病院に行かないだろう。」
「病院行くから、工藤は残って捜査しろ。」
「おめえが病院に行って治療受けるまで、心配で碌な推理なんかできねえ。」
タクシーに乗り込んでも、新一は平次を離さなかった。
掴まれた腕はやたらと熱いのに、頭の中は冷え切っている。
今まで新一は、一度だって事件現場を放棄するようなことはしなかったのに。
隣に座る新一は、怪我をした平次よりもずっと動揺している。
状況は、非常に悪い。悪いのに、どこか喜んでいる自分も居る。
「工藤、腕見てもろうて特に異常がないようやったら、すぐに現場に戻って2人でスピード解決といくで。」
平次はそう言ったが。
「おまえは今日は休め。」
そんな言葉、平次は聞きたくなかった。
このままじゃ2人ともダメになってしまう。
それでも今はまだ、平次には新一の手を振り解くことはできなかった。

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