8月 2010Monthly Archives

たまには、(新平)

久し振りに会ったというのに、ケンカした。
まともなケンカは初めてのことかもしれない。
きっかけは、些細な意見の食い違い。だが、言い争っているうちに、そんなことなどどうでもよくなって。
気がつけば、お互いだんまり。
顔を見合わせることなく、他にすることもなかったので新一も平次も読書をしていたが。本の内容はちっとも頭の中に入ってこなかった。
先に本を読み終えたのは新一だった。
黙って座っているのもきつかったので、コーヒーでも入れようと考える。
用意したカップは、2つ。
丁寧にコーヒーを入れ、新一は無言のままカップを平次の前に置いた。
「謝らんからな。」
平次が本から目を離すことなく言う。
「わかってる。でも俺も謝るつもりはない。どっちが悪いってわけじゃねぇから。」
「じゃあ何が悪かったんやろう。」
「間が悪かっただけじゃねぇか?」
そうとしか言いようがなかった。
平次が本を閉じ、カップを手に取る。
「コーヒー、おおきに。」
ごめん、とは言えなかったが。それだけで充分だった。
「飯食いに行くか。」
「そうやな。」
コーヒーを飲み終えてから、家から出る。
仲直りらしい言葉は出されなかったが。
近所の店についた頃には、いつもどおりの2人に戻っていた。

good morning(ハボロイ)

夜勤明け。一服してから帰ろうと、火を点けていないタバコをくわえながら喫煙室に向うと、そこは既に満杯だった。
タバコが吸えるのはここだけではない。ハボックは、別の場所に向うことにした。
向った先は、執務室。この部屋を禁煙にしていない上司のことをハボックは感謝している。というか、愛してる。
「ん?」
執務室の中に、人の気配を感じた。リザだろうか?いや、いくらなんでもこの時間から来ているはずはない。
ハボックは警戒しながらドアを開けた。
「大佐?」
どうして、ロイがここに?何か緊急事態でも起きたのだろうか、とハボックは表情を引き締めたが。
「ご苦労。君なら帰る前にここに寄ると思っていたよ。」
どうやら何かあったわけではなさそうだ。
「どうしたんですか?もしかして俺に会いたかったとか?」
「そういうことになるかな。」
ロイがデスクから応接セットへと移動する。テーブルには、いくつかの紙袋が置かれていた。
「君と朝食を採ろうと思ってね。一服したら、こっちに来るといい。」
ロイは紙袋からパンにチーズ、ハム、サラダを出していった。
「マジで?それともこれは何かの罠ですか?」
「人聞き悪いことを言うな。最近、忙しくてあまり会話を交わす機会がなかっただろう。ようやく昨日落ち着いたと思ったら、君は夜勤だし。私も今日は昼前から隣町に出かけることになっている。帰りは遅くなりそうだから、君には会えそうにないと思ってね。」
だから、せめて朝食くらいは一緒に採りたい。珍しく素直に向けられたロイの愛情に、ハボックは感動する。
「タバコより、こっちが欲しいです。」
そう言うとハボックはロイに近づき、素早くキスをした。
軽く触れるだけのキス。それだけでもハボックは幸せを感じられた。
「ここではそういうことをするなと言ってあっただろう。まあいい。食べてすぐに帰ってゆっくり休むんだ。」
「昼前って、何時ですか?俺、お供しますよ。」
ハボックはそう言ったが。
「君の今日の出勤時間は13時だ。休める時に休め。」
「大佐の側に居られる方が嬉しいんですけど。」
「公私混同だな。だが、気持ちは嬉しい。今はそれだけで充分だ。」
やんわりとロイに断られた。
「週末には休みが取れる。一緒に居るなら、仕事抜きの方がいい。」
「今日の大佐、俺のこと甘やかし過ぎです。」
「そうじゃない。私は自分のことを甘やかしているだけだ。」
つまりそれは、ロイもハボックと一緒に居たいということで。
嬉しくて思わず抱き締めたくなったが、今は想像だけで我慢しておくことにした。週末には、思う存分抱き締め合うことができるのだから。

読心術(米英)

不意に、アメリカがイギリスにキスをした。
「何しやがる!」
「触れれば、わかるかと思って。」
そう応えたアメリカの表情は、何だか少し寂しげだ。
殴り飛ばそうと握った拳を、イギリスは引っ込める。
「何を知りたいんだ?」
「わからない。」
「何を知りたいかわからないのに、答えが出るわけはなかろう。」
イギリスが、呆れたようにため息を吐く。
「じゃあ、俺のことが好きかどうか。」
そう言いながら、アメリカは再度イギリスにキスをしようとしたが。
イギリスが、サッと身を引いてアメリカから逃げる。
「そういうの、知られたくない?」
「違う。意味がないことをするなと言いたいんだ。触れればわかるなんて、そんなことあるか。知りたいなら言葉で尋ねればいい。イギリス様教えてくださいと言われれば、俺も少しは考えてやろう。」
イギリスの尊大な言い方に、アメリカがくすりと笑う。
「そんな言い方するわけないだろう。もういい。」
もういい、と言ったはずのアメリカが、イギリスにキスをした。
完全に不意打ちだ。
「もういいんじゃなかったのか。」
「君が俺を好きかどうかはもういい。だから、キスしたいからしてみた。」
「おまえが何をしたいのか、さっぱりわからん。」
「触れてみれば、わかるかもしれないよ。」
「わからんでいい。」
これ以上アメリカの好きにされてたまるか。イギリスが、アメリカを残し、席を立った。
「本当に、触れればわかるんだけどね。」
アメリカが独り言を出す。
だがわかったのはイギリスの心ではなく、アメリカ自身の想いであった。

いい関係(独伊)

イタリアが、慌ただしく部屋の中に入ってきた。
「ドイツーっ、遊ぼう。ねっ、サッカーしよう。」
イタリアの腕にはサッカーボールが握られていた。
「今はまだ仕事中だ。終わったら遊んでやるから、それまで一人で遊んでいろ。ただし、部屋の中でサッカーはするな。外に行け。だが遠くには行くな。」
「わかった。」
ドイツの応えを聞き、イタリアが部屋から出ていく。
「俺も甘くなったな。」
ドイツがそうこぼす。以前なら、うるさいから出て行けとしか言わなかったはずなのに。
しかもイタリアをあまり待たせたくないと考え、仕事のペースを早めてしまっている。
「甘くなったどころではないな。」
好きになった。
それはそれで、まあ悪くない状態だ。

happy?(新平)

新一が、抱き締めて、キスをしてくる。
いつもは深く長い口付けだったが、今はすぐに唇が離された。
どうしたんだろう、と平次が新一の顔を覗き見る。
「何かあったんか?自慢のポーカーフェイスが崩れとるで。」
「そんなにニヤけちゃいねーよ。」
新一はそう言ったが、それが誤魔化すための言葉であることは平次にもすぐにわかった。
ニヤけてはいない。疲れた表情だ。
「ええから今日はもう寝ろ。」
「一緒に?」
「あほ言うな。俺はもうちょっとしたら帰る。」
「そうだったな。」
あっさりと新一は平次の身体を離した。
「やっぱり工藤、今日はおかしいで。」
「そうか?じゃあ、もう1回キスしてもいいか?」
「何が、じゃあ、や。誤魔化すな。」
「そんなつもりはない。ただ、最近思うところが多くて。」
そう言った新一がやけに頼りなさげな顔をしていたので、平次はソファに座ると、新一に隣に座るよう誘った。話をするためだ。
「その思うところっちゅうやつを聞かせろ。」
新一は一瞬黙り込んだが。黙秘を貫くつもりはないようだ。
「幸せと辛さって、似てるよな。」
「漢字がか?」
「それもあるけど。もう少し、気持ちの問題。」
あやふやな回答。新一が出すのは珍しい。
「全然ちゃうと思うけど。」
「似てるっていうか、比例してるって感じかな。」
「言ってる意味、ようわからん。」
「おめーといる幸せが大きいほど、離れる辛さも大きくなる。」
珍しく、新一は回りくどい説明ではなく、簡潔に応えてきた。
「あほか。離れとったって、想いは繋がっとるんやから、あるのは幸せだけやろう。」
思わず本音を出してしまい、平次は照れ隠しにすぐにソファから立ち上がった。
「おめー、そんなに俺のこと好き?」
「帰る。」
平次は新一の質問には応えずに、そそくさと玄関に向った。
一瞬だけ立ち止まり、平次は小声で呟く。
「後でメールする。」
振り向かなくても、新一のニヤニヤした笑顔が見えたようで、平次はムッとした表情を作ってみた。