10月 2010Monthly Archives

postpone(ハボロイ)

何かと忙しいロイが今週末は休みが取れそうだったので、久し振りに2人でどこかに出かけようと約束していたのに。
その約束を反故にしたのは、ハボックか、それともロイか。
「ハボック少尉、今すぐ南方司令部に行って、そこに捕らえられている男の事情聴取を行って来い。」
「えーと、あの……南方司令部で捕まえた奴なら、あっちで尋問すればいいんじゃありませんか?」
ハボックが、恐る恐るロイに聞き返す。
「先週おまえが取り逃がした男だ。あちらとうちでは欲しい情報が違う。おまえが直接話をしてこい。」
嫌だと言える立場ではなかった。
「了解しました。」
ハボックがロッカー室へと向かう。
南方司令部までは行って帰ってくるのに恐らく3日間だろう。それくらいなら今すぐ行けと言われてもロッカーの中にある荷物で足りるはず。
だが、ロイと過ごす休日は過ぎてしまう。
少しでも早く用事を済ませて帰ってこられるよう、ハボックは急いで荷物をまとめると、司令部から出た。
駅までは軍用車で送ってもらえると言われていたので、ハボックは表門で車を探す。
居た。
だが運転席に乗っていたのはロイだった。
「何であなたが運転席に居るんですか?」
「送ると言っただろう。」
「あなたは運転手なんかしてもいい身分じゃないでしょう。」
「では駅まではおまえが運転して行け。」
ロイは運転席から降りると、助手席に乗り込んだ。
本当にそれでいいのか、とハボックは思ったが。運転席に座ると、車を駅へと向かわせた。
「大佐、よろしかったんですか?もしかして、今、暇だったとか?」
「そんなわけなかろう。ここで一時間使うせいで、週末の休みはなくなりそうだ。」
「だったら司令部で仕事しててくださいよ。」
ハボックは車を止めると、司令部に戻ろうとしたが。
「君が居ないのに休暇を取っても意味がない。」
ロイが呟くようにそう言った。
「大佐……。」
一緒に過ごす休日を失い残念に思っていたのはハボックだけではなかった。そのことに、ハボックは嬉しく思わされる。
「おまえが朗報を持って帰ってくれば、少しは仕事が捗る。来週末は休みが取れるだろう。」
「しっかり働いてきます。だからあなたは安心して俺が帰ってくるのを待っててください。」
「任せた、と言いたいところだが。君が張り切り過ぎると、碌なことにならん。」
からかうように言いながら、ロイがクスクス笑う。
ほんの少しだけ、気分が和む。だが気を緩めるわけにはいかない。
駅に着くと、すぐに列車に乗り込み、ハボックは南へと向かった。
南方司令部で、ハボックは成果をあげる。
だが、あげ過ぎた。
予想していなかったテロリストの情報まで吐かせることができてしまい、帰るとすぐに出動。結局その週の休みも潰れてしまった。
「だから張り切り過ぎるなと言ったんだ。」
ロイはそう言ったが。ハボックの持ち帰った情報に、満足げな笑みを零していたのも事実だった。

期限付き(新平)

前回、新一と会ったのは、正月だった。
事件の捜査に試験勉強。その忙しい合間を縫って、新一は大阪にやってきた。
一緒に初詣に行った後、新一は駅に直行。そのまま、東京へと帰って行った。
会うのはその日以来だったが、ほぼ毎日メールの交換と、週一回の電話は欠かしていなかった。
それでも会うのは久し振りで。それも今日は互いの大学合格祝いと銘打っているのだから、浮かれまくっていてもいいはずなのに。
けれども新一の表情は不機嫌だ。
その理由は、新一が迎えに来てくれた東京駅で既に話されている。
「おめー、なんでこっちの大学受けなかったんだよ。」
大学を卒業したらお互い何かと忙しいのは目に見えている。だから大学生活四年間は一緒に過ごしたい。それは一年以上前から新一に言われていたことだ。
「大学は大阪って決めとった。その後は、日本全国が俺の活動範囲や。」
そんな平次の応えに、新一は益々ムッとしていたが。平次は考えを変えるつもりはなかった。
「それならせめてここではっきり答えを出せ。おめーはこれからも俺と友人でいるつもりか、それともライバルであるか、恋人になるか。」
出会った時はライバル視していたが、いくつもの事件を一緒に解決していくうちに、良き友人となっていた。そのうち、平次に恋心を抱くようになっていた新一の想いは既に何度も告げられている。
平次は少しだけ考えたが。
「三択って、一見俺に選択権があるように見えるけど、結局工藤の提示した案の範囲でしかない。それに乗る程度の考えしか持てない男には見られとうない。一週間待て。来週また来る。その時には、工藤の案以外で工藤が納得出来る答え持ってきちゃる。」
選ぶのは簡単だ。決めかねれば、サイコロを振ってもyごいはず。
だが、平次は自分で考え抜くと言った。
そんな平次らしい応えに、新一はようやく機嫌を直したように笑顔を出した。
「だからおめーのこと好きだ。」
真正面から笑顔を見せつけられ、平次はクラッときそうになったが、そう簡単に堕とされるつもりはない。
「この話は来週まで保留や。それより、先週あった事件の話しちゃる。」
平次が話し出す。
新一が本当に聞きたかったのはその話ではなかったが。それでも平次のした話に夢中になり、自分なりの意見を言い、互いに納得のいく結論が導き出される。
親友のような関係。
来週平次が持ってくる答えはもしかするとそんなものかもしれないな、と新一は予想したが。
珍しく、新一の推理は外された。

東京駅の改札口前で、新一は平次を待つ。
人ごみの中、平次の姿はすぐに見つけられることができた。
平次は大きなかばんを二つ抱えていた。
「すげえ荷物だな。入学式の直前までこっちにいるつもりか?」
それなら二週間は一緒にいることが出来る。
新一はそう考えたが。
「一年や。休学届出してきたから、一年間こっちに居るつもりや。工藤ん家、空き部屋あったやろう。そこ使わせてもらう。」
平次の言葉に、新一は驚きを隠すことが出来なかった。
「どういうつもりだ?」
「はっきり答えを出せ言ったやろう。俺の答えはこうや。答えを出すために、一年間、観察する。工藤のこと、それと、俺自身のこと。」
「それ、答えになってねぇと思うけど。」
新一の言葉に、平次は笑顔で応えた。
「工藤の出した三択の答えにはなっとらん。せやけど今の俺にはこれが正解や。時間をかければいいっちゅうもんやないけど、焦る必要はない。どの答えを選ぶにしても、俺は工藤と無関係にはならへんのやから。」
だから今はじっくり考えるという方法をとった。ただし、一年間の期限付きで。
「了解。一年間、じっくりと俺を見て、俺のことを考えろ。そうすれば、おまえは俺にとって最高の答えを出すから。」
新一の自身有りげな言葉に、ムカつかない気持ちはないでもなかったが、そういうところも含めて工藤新一なのである。単純に感情でイラついてはいけない。新 一を観察しろ。そして見たものを客観的に考察する。そうすることで、平次は真実を見いだせると考えたから、一年間新一のすぐそばに居続けることにしたの だ。
「とりあえず、一年間よろしゅう。」
「こちらこそ。」
新一と平次は、固く握手を交わした。