11月 2010Monthly Archives

冬のはじまり(新平)

駅から出た平次が、空を見上げる。
「寒いと思ったら、雪か。」
平次が軽く身震いする。
目的の場所は、ここから歩いて10分程度のところらしい。
新幹線で東京に向かう途中、平次は新一から事件が起こったから迎えに行けないとメールを受けた。居場所を教えてくれたということは、間に合えば来いということだろう。
チラチラと雪の降る中、平次が足早に歩く。
積もるほどの降り方ではなさそうだったが、やはり寒い。僅かにかじかんできた手を、平次はポケットの中に入れる。
大阪を出た時は感じていなかったが、東京に来て、冬が来たことを知る。
思い起こせば、季節の変わり目にはいつも新一と共に居た。
いつも一緒に居ることは出来なくても、同じ時を歩んでいる。そんな風に考え、平次が小さく笑顔を零す。
その瞬間、携帯電話が震えた。
「工藤か?」
ディスプレイで確認する前に、平次が携帯電話を耳に当てる。
「今どこだ?」
「あと5分で着くで。」
「ちょうどいい。手が足りないんだ。」
事件のことで新一が平次を頼ってくるのは珍しい。平次は目的地に着くまでの間に、新一から状況の説明を受けた。
「犯人はわかったんだけど、証拠が足りない。あと10分でどうにかしないと、犯人に逃げられる。手分けして証拠を集めるぞ。」
会ってすぐに新一が平次にそう告げる。
挨拶もなしか。平次はそう思わずにはいられなかったが。そんなことを考えている暇などない。
平次は言われたとおり別の部屋を捜索しようとしたが。
「ちょっと待て。」
新一は平次を呼び止めると、首に巻いていたマフラーを取り、平次にかけた。
「大阪より寒いだろう。」
それだけ言うと、新一はすぐに捜査に戻る。
平次を気遣っている余裕なんかないくせに。だが新一の小さな優しさは、平次の心を温めた。

day off(ハボロイ)

外勤から戻ってきたハボックが、ロイに報告する。
「その程度のことなら報告書を提出する必要はないな。」
ロイにそう言われ、ハボックはホッとする。正直、報告書を作るのは苦手だ。
「それから、君は明日休みを取れ。ここのところ昼も夜も働きづめだっただろう。上から部下を使い潰すなと小言を言われたよ。」
その時のことを思い出してか、ロイが苦々しい表情を出す。
「別にこの程度じゃ潰れませんって。まだまだ動けますよ。」
だから休みはいりません。ハボックはそう言おうとしたが。
「机の上の書類の整理ならブレダ少尉が代わりにやってくれるそうだ。」
先にロイにそう言われてしまった。
「ですが……」
「他にもまだ仕事が溜まっているのかい?」
「そうではなくて。休みは嬉しいですけど、あなたに会えないことが寂しいだけです。」
ハボックの言葉にロイは何も応えなかった。聞こえなかったことはないだろう。どうやら聞き流されたようだ。
ハボックはデスクにつくと、残りの書類を片付けにかかった。
定時に仕事を終えると、ハボックは休暇届を書き、ロイに渡す。
ロイはそれを受け取ると、すぐに了解のサインをしてくれた。
「ハボック少尉、私は2時間残業する。」
ロイは残業なのに、ハボックは休みを取るのか。そう嫌味を言われたのかと思ったが。
「夕食を用意しておきたまえ。」
仕事が終わったら会いに行く。ロイはハボックにそう告げた。
「これを片付けられたら、明日私も休みが取れるからな。それに、護衛が居なくては外勤に出ることもできない。」
外勤ならリザと一緒でいいだろう。それより、内勤の方が忙しいはずだ。ハボックはそう思ったが。そのことは口に出さなかった。
一緒に休日を過ごしたい、と言われたような気がしたからだ。
「朝飯の材料も買っておきますよ。」
遠回しに、泊まっていけ、とハボックがロイに告げる。
「任せる。」
ロイの了解を取ると、ハボックは浮かれた気分で執務室から出て行った。
2時間あれば、それなりに準備は出来る。夜勤続きで懐も少しは暖まっていることだし。ロイが手土産に持ってきてくれる上質のワインを想像し、ハボックは肉屋へと向かう。
一緒に過ごせるのなら仕事だろうとかまわないと思っていたが。やはりそれ以外の時間の方がいいに決まっている。
ハボックは、明日の休日に胸を躍らせた。

maybe(新平)

新一が、ベッドに沈み込んだままの平次を見下ろしながら言う。
「俺、多分、おめーのこと好きだ。」
新一からの告白は嬉しかったが、それでも平次はムッとせずにはいられなかった。
「多分、って何や。」
「そういうの気にしたことなかったから。でもおめーと話すのは楽しいし、会いたいと思うし、おめーは男だけど抱きたくなる。だから、多分、好きなんだろうなって思った。」
納得のいく答えではなかったが、平次は何も言い返さないことにした。
これでこの話は終わり、と平次は思ったが。そうはならなかった。
「おめーは多分じゃなく俺のこと好きだよな。そうでなければ、俺に突っ込まれて文句言わないどころか気持ちよくイけたりしない。おまえは俺以外の男に抱かれるなんて絶対に嫌だろう。つまり、おめーは俺のことが好きだってことだ。」
悔しいが、新一の言うとおりだった。
ムキになって反論することもできなくもなかったが。それでは新一の思う壺のような気がしたので、平次は逆に目いっぱい笑顔を作ってみせた。
「そうや。さすが名探偵。ようわかっとるやないか。俺は工藤のことがめっちゃ好きや。」
嫌味たっぷりな言葉であっても、嘘ではなかったので、新一は嬉しいと感じた。
「おまえさぁ、俺のどこがそんなに好き?」
「名探偵なら推理しろ。」
「そうだな。」
それだけ言うと、新一は黙り込んでしまった。
どことなく居心地の悪い沈黙。
堪え切れず、平次が新一に尋ねる。
「それで、何の話やったんや?」
「俺がおめーのこと好きだって話だ。」
新一がそう応える。
「工藤、『多分』って抜けとるで。」
平次にそう指摘されたが、新一は言い直すつもりはなかった。
「それでいい。」
新一が、平次に笑顔を向ける。
何がいいのか平次にはわからなかったが。つられるように平次も新一に笑顔を返した。