7月 2012Monthly Archives

真夏の桜(新平)

新一が、隣に居た平次を抱き締めようとしたが。
「そういうのあかんて言うとるやろう。」
平次が新一の腕から逃げる。
「どうしてダメなんだよ。俺はおまえが好きで、おまえも俺が好き何だから、これくらいいいだろう。ダメならその理由を言え。」
「理由は関係ない。ダメだからダメなんや。」
理由を言われれば言い返すことは容易かったのに。理屈を抜きにされてしまえば、新一は何も言えなくなる。
「ちょっと触れる程度でもダメって、プラトニックどころじゃないだろう。おまえ、どこまで俺に我慢させる気だ。」
「ちょっと許せば、工藤のことやから全部持ってくだろう。いくら工藤のことが好きでもそこまでの覚悟はまだできてない。」
「まだってことは、いつかはそうなってもいいってことか?」
「いつかはな。」
「そのいつかって、いつだ?」
いつかはいつかだ。平次はそう応えることもできなくはなかったが。ここまで新一から逃げ続けてきたし、新一もそれを許してくれていたのだ。いい加減な応え方はしたくなかった。
少しの間、平次は黙って考える。いつか、とは、いつ?
「桜が咲いたら、その気になるかもしれん。」
平次が呟くように応えた。
「今はまだ初夏だぜ。しかも、なるかも、かよ。それまで待ってもならんかもしれないってことだろう。」
「確かにその時になってみないとわからんな。」
結局、新一の望む返事は得られなかったが。それですぐに諦めるような新一ではなかった。
「だったらすぐにでも桜を咲かせてみせてやるよ。それくらいのことをすれば、おまえも俺に惚れまくるだろう。」
「できるんか?」
「おまえのためなら、俺に出来ないことはない。」
新一はきっぱりと言い切った。
新一なら本当に夏に桜を咲かせることが出来るかもしれない。そんなことを本気で思ってしまうあたり、既に新一に惚れまくりなんだろうな、と平次は思ってしまった。